Diary of a Madman

癲狂院に置かれた或る一冊のノートブック
狂気の記憶が焼き付いた、深淵なる倒錯の記録の数々。
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タイミングが悪かったかも...。

 そんな出来事が起こる前から読み始めていたのが、「ドグラ・マグラ」。思考回路が山手線になっていたのも、すこし影響しているに違いありません。

 以前貼った、アマゾンの商品ページのレビュー等を見てもらうとわかるのですが、この話には終わりがないのです。作品の最初と最後の文章が全く同じ時計の音の擬声語で、しかもそれが同時刻だというのです。そしてもうひとつは、この「ドグラマグラ」という本が、この作品自体の中に登場するのです。つまり、入れ子状態と時間の、ループが永遠と続く世界なのです。よく...「夢オチ」という終わり方がありますが、これも夢オチみたいな形なのですが、その終わりが最初に戻ってしまうので、終わりがないのです。.........永遠に覚める事のない夢、とりわけ悪夢程、地獄なものはないです。おまけに、主人公の「わたし」は自分が誰なのか記憶もなく、他人からとある青年が殺人者で精神病院に閉じ込められていることを知るのですが、それが「わたし」だというのです。でも記憶にない.....。おまけにその青年を病院内で目撃してしまうし(ドッペルゲンガーの様な感じですね)。一体誰なのか確信を持てずに話は進みようやく分かりかけたところで、最初に戻ってしまうのです。

 この作品は、著者の夢野久作が長い歳月をかけて作り上げたものだからか、いろいろな要素や話がつぎ込まれています。当時(〜大正時代)の精神病院の有り様、および精神病患者の扱いの酷さには改めて痛感した次第です。一度気違いの扱いをされてしまうと、即入院.....というより投獄という感じで、二度とは出られない地獄を味わう事になるということ。他の病気と違って、精神病だけが冷酷で正当な扱いを受けられない、という有り様なのです。

............過去の事件などを調べたことがあるのですが、いわゆる「狐憑き」の類いの事件は当時よくあったようです。その狐を追い払うために、憑かれている人間を殴ったり叩いたり....いわばリンチのような治療(とはもはや呼べない...)で、それで死んだら運が悪かった、で済まされてしまうという時代がかつて実際あったことは知っていましたが............。

 また、当時の精神病の偏見や乏しい知識を皮肉っているのかわかりませんが、やたら「変態性欲」と結びつけたがるふしがあったように思います。絞殺した事が、首を絞めることを欲することだと→....とか、嫁いでいる姉に憧れて、嫁の振りをするという妹の行為を→....とか、前に紹介したクラフト・エビングの書物の内容にも近い感じです。というか、今で言う変態性欲とは意味合いが違うのかもしれません。あ!、語彙を区切るところが違うのかも。「変態性、慾」、ってことなのかも。

 それと、この話では、発狂する所以が、過去の、何百年も何千年もの時間を精神遺伝によって脈々と受け継がれたものだということになっていて、その長い歴史を胎児の頃に夢見る.....とも言うのです。話の中で、殺人を犯した青年=わたし が出てきますが、その狂気の沙汰もまた、先祖の、殺人を犯した人間の潜在的な意識を時空を越えて受け継いだというのです。そして、この話はその途方もない歴史の一部分を胎児の頃に夢見ている......というようなことで、終わっている感じなのですが、結局のところ、記憶のない「わたし」の夢なのか、現実なのかどうかは分からず終いです。それどころかこれが夢ですらどうかさえも分からないかもしれないのですし......ということは一体何なのか..........よく....分からないのです。

 この話まではいかなくとも、「例えばもしも」今過ごしているのがたとえば夢で、自分が見たと思っている夢の方が実は現実だったとしたら...........みたいなことを、ふと空想したことがあるので、例えば悲しい出来事が起こったりすると、これが夢であればいいのに! なんて「思いたくなってしまう」のです。もちろんそんなことがあるはずもないことは百も承知ですが、この「ドグラマグラ」を読んでいたおかげで、より一層そんなふうに考えてしまっていました。


 とはいえ、個人的には満足できた本です。人には勧められませんが.......それでも三大怪奇推理作品の1つなのだとか。
どうでも良い話ですが、許嫁の設定が、絶世の美少女とかいう触れ書きで、しかも名前がモヨ子.......。「少女地獄」の虚言症の美少女ナース(w、姫草ユリ子のネーミングにもはっとさせられましたが、大正末期でこのネーミングは斬新だと思うのですが...どうなのでしょう。それにしても、モヨ子.........。隣の病室で「お兄様ぁぁぁ〜っ」なんて叫んでたりするくらいで、他にそれほど登場しなかったので、ちょっと残念。「わたし」と病院抜け出して常識を覆す様なドラスティックではしゃぐ日々を送って.....みたいな世界になってほしかったけど..............。

 話の内容も、登場する博士の口調などもあってダークな感じはありません。むしろ笑ってしまう様な箇所もありました。ネーミングも、「アンポンタン・ポカン」とか。w あぁ...でもこの作品中にどれだけ「キチガイ」の言葉が出て来たことか.....。  ...................やっぱりお勧めします。w 

 夢野久作を知ったのは、青空文庫(著作権のない作品をネットで公開しているサイト)で、「瓶詰地獄」というのを読んだからなのですが、妙な世界観や雰囲気が自分には合わないかも...と思いつつも変わってるな.....とも思っていたので、前から気になっていました。「ドグラマグラ」は上下巻の長編だったので、短編集だった「少女地獄」をとりあえず読んでみたら、これがおもしろくて。中でも学園モノの「火星の女」は痛快でした。(これもどうでもよいことですが、お嬢が出て来たり、車もシボレーだったりして、個人的に.......ね。)

おすすめ。
少女地獄(青空文庫内)

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