芥川龍之介は子供の頃から好きな作家のうちの一人で、新潮文庫から出ているものはほとんど持っています。もちろん全てが好きというわけでもないし、巻末の著書の紹介を見ても、キリシタンものといわれるこの「奉教人の死」も興味が持てず買わずじまいのままでした。また今までにある程度芥川の主立った作品は読んだつもりでしたので、好きな作家とは言ってももうこの辺りでいいかな....とも思っていました。
なぜ「奉教人の死」を買ったかと言えば、タイトルの通りです。「るしへる」という作品がこの「奉教人の死」に収められていたからでした。「るしへる」は悪魔のことについて書かれている.....なんて紹介されたりしていますが、ルシフェルのことを知っていれば、この「るしへる」が「ルシフェル」だとピンとくるはずです。
そもそもこの「るしへる」という作品があることを知ったのは、同じく芥川の作品「或阿呆の一生」内に出てくる文章が気になってネットで調べ物をしていた時に偶然見つけました。
「死にたがつていらつしやるのですつてね。」
「ええ。——いえ、死にたがつてゐるよりも生きることに飽(あ)きてゐるのです。」
彼等はかう云ふ問答から一しよに死ぬことを約束した。
「プラトニツク・スウイサイドですね。」
「ダブル・プラトニツク・スウイサイド。」
彼は彼自身の落ち着いてゐるのを不思議に思はずにはゐられなかつた。
(「或阿呆の一生」四十八 火あそび より 青空文庫から引用) (*新潮文庫の同作品は旧仮名から新仮名づかいに直してあります)
この中の「プラトニツク・スウイサイド」「ダブル・プラトニツク・スウイサイド。」という言葉が引っかかっていまして、巻末の注釈には「精神的自殺」「精神的心中」としか書かれていなくて.......。それで調べ物をしていたら、たまたまヒットしたページ内に「るしへる」のレビューが載っていた....という次第です。
これはサイトデザインとは直接的な影響を受けたわけではありませんが、「るしへる」に登場する悪魔は、ラストバイブルに登場する(特にラストバイブル1の)ルシフェルに近い思想があるように思えました。悪魔にも悪魔なりに葛藤していて、何と言うか.......巻末の解説を載せた方が分かり易そうなのでそちらを引用しますが、禅僧が悪魔(るしへる)に出会った時にその悪魔が述べた事をまとめると、-----------「あなたがたが善の崖っぷちにいて、悪の魅惑に吸い込まれそうになっているのに似て、悪魔である自分はいつも悪の崖っぷちにいて、善の魅惑に吸い込まれそうになっている、奴らは悪の一点張りだ、などと誤解しないでほしい」------------ということです。
ラストバイブル1に登場するルシフェルとミカエルは共に魔獣の生存の方法を、前述に倣えば悪と善のそれぞれの方向で実行します。ルシフェルはそれによって最終的に主人公に倒されます。(つまりラスボス) しかし倒した後のルシフェルの「まじゅうをたのむ....」という台詞を吐くところや、もとから悪事を働いていたわけではないところから考えると、「るしへる」内のルシフェルもそうですが、ミルトンの「失楽園」に登場するルシフェルもまた同じルシフェル像のように思えます。
「されどわれら悪魔の族(やから)はその性(さが)悪なれど、善を忘れず。右の眼は『いんへるの』の無間(むげん)の暗を見るとも云えど、左の眼には今も猶、『はらいそ』の光を麗しと、常に天上を眺むるなり。
(はらいそ=ポルトガル語で天国の意味。たぶん英語のparadiseと同義だと思います。いんへるのもまたinfernoと同義語だと思います。)(「るしへる」より青空文庫から引用)
とにかくこの「るしへる」に登場する悪魔は、いわゆるルシフェルそのものといって良いと思えます。地獄に堕ちたいきさつも、神に逆らい1/3の天使とともに堕ちた、ということが書かれていますし、風貌も、コウモリのような翼やかぎ爪など醜い姿はしておらず、肌黒ですが眉目は悪くなく、法衣に身を包み、首に金色の首飾りをしている.....と描かれています。禅僧との会話のやりとりの内容もいかにもなルシフェル像で、読んでいてなんとなく嬉しい気分になったりしました。.........さすが芥川。
ルシフェル好きの人はぜひ読む事をお勧めします。といっても話にオチがあるわけでもないし文庫では8ページしかない超短編です。ですが、冒頭に紹介した「青空文庫」にも載っていますが旧仮名づかいですし、ことあるごとにふりがながふってある上に、注釈が無いと分かりにくい言葉もキリシタンものゆえに多いので、出来れば新潮文庫の「奉教人の死」を買う事をお勧めします。収められている作品は、すべてキリシタンものの作品なので、本を通して統一感があります。タイトル作品は意外な結末で驚くと共に泣ける話ですし(ちょっと萌えるかもw)、「煙草と悪魔」「報恩記」はいつもの芥川のウイットに富んだ話ですし、「神神の頬笑」「おぎん」「おしの」などは、キリスト教の在り方に疑問を投げかける様な....興味深い話です。
.........ちなみに....芥川龍之介の写真で珍しいのを見つけました。
http://uraaozora.jpn.org/akutagawa.html
.........若い頃の写真でしょうか。てっきりB'zの稲葉かと思ってしまいました。芥川ってモテまくったとかいうし、結婚後もずいぶんと浮名を流していたらしいし。
Ryunosuke Akutagawa (1892-1927)
YouTubeにある芥川の動画です。有名な、麦わら帽子を被ってたばこをの火をくすぶらせる芥川を映したものです。これが撮影されてから数日後に自殺していたと言うらしいので、たぶんこれに映っている芥川はそうとうラリっている状態なのかも........。体を慣らす為に1週間近く前から睡眠薬を大量に飲み続けていたそうなので。その割にはすいすいと木登りしているところも見栄っ張りな芥川らしい気もします。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seventh-heaven.jp/diary/mt-tb.cgi/507