Diary of a Madman

癲狂院に置かれた或る一冊のノートブック
狂気の記憶が焼き付いた、深淵なる倒錯の記録の数々。
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ロートレック

 ........書こう書こうと思いつついつのまにか2年も経ってしまいました。

 ロートレック〜葡萄酒色の人生〜(直リンだとトップに移動してしまうのでコピペで)
http://www.biograf.cz/filmy/1999/02/lautrec/index.html
  という映画についての感想を交えつつロートレックについて書こうと思っていたのですが、感想をうまくまとめられず下書きのままいつのまにか放ったらかしにしてしまいました。とはいっても相変わらずの事、たいしたことは書けないのですけれど。


 この映画は、ほとんどロートレックの生涯を綴った内容になっていますが、見た後調べたところではスポットとして当てたのはシュザンヌ・ヴァラドンとの恋愛だったようです。ロートレック、ヴァラドン共に画家で、ロートレックは死後になって人気が高まり、ゴッホの様に破滅的な画家としても有名です。ヴァラドンは同じく画家のユトリロの母親として名が知られていますし、同時期の画家のルノワールやドガのモデルを務めていました。この映画の内容がどこまで事実に基づいているのか詳しくは分からないのですが、手持ちの画集の解説やネットで調べた情報と照らし合わせると、おおよそ史実に忠実な内容の様です。


 今でこそ、ロートレックの風貌や人柄を少なからず知っていますが、まだ名前くらいしか知らない頃は、ロートレック(アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック)という名前の響きに随分と紳士的なイメージを抱いていたのですが、写真(上)を見てそんなイメージは消し飛んでしまいました。写真を見て不思議に思われるかもしれません。子供の頃に誤って足を骨折してしまいそれ以降その足が成長する事はなかったそうです。原因は、両親の近親間の婚姻によるものだと言われています。

 フランスでも指折りの大富豪と知られていたトゥールーズ家の御曹司としてそれまで寵愛されてきたのが一変、その奇形から見放されてしまい、その後の活路を見出そうとした結果、画家になる事を決心します。ちなみにトゥールーズ家は絵の上手い家系だったことで知られています。


 パリに移り住んでやがて夜の歓楽にふけるようになります。よく....酒と女に溺れてゆくようになる....つまりこれが破滅型の画家の端的な表現ですが、個人的には「溺れた」という風にはあまり思えません。もちろん結果的にはアルコール中毒と梅毒により命を落とします。しかし、彼は大変な美食家だったといいますし、性欲が「人並みはずれて」旺盛だったと言われています。また自身の境遇に屈する事なくひょうきんで明るい性格だったとも言われます。そして言うまでもなく大富豪の生まれであるのです。それらから察するに、溺れた、堕ちた...というようなネガティブな風には感じられないのです。ほとんど無尽蔵にある財力を元に、「純粋に」 したいことをしたいままにしたまでのことで、その結果その止めども無い欲望に身体がついてゆけなかっただけなのだと...........そう思っています。なので彼がそれほど不幸だったとは思えないのです。それでも「破滅」はしていることには違いはないのかもしれませんが。

 この映画でも描かれている様に、シュザンヌ・ヴァラドンという一人の女性に愛されています。その関係は長くは続きませんでしたが、映画を見た限りでは幸福の時間であったに違いありません。その頃の場面がまたまぐわってるところばかりで、一瞬違う映画を見ているのかと思ってしまう感じでしたがw、満ち満ちる葡萄酒の様な雰囲気が感じられました。共寝して朝起きてxxx、朝ご飯食べてたらxxx、シュザンヌをモデルにして絵を描いていたらxxx、ワインを飲み交わしながらxxx............(*ノωノ)
 ついでに書いておくと、シュザンヌ役の女優がまためちゃめちゃ綺麗な上に身体も素敵で......実際のシュザンヌはどうっだったかは知らないけれど、ま、あれだったらああなってしまうのも当然です。w 


 「大きな注ぎ口のついたコーヒーポット」と自らをそう評していた様に、絶倫だったロートレックにとってシュザンヌひとりでは満足できなかった...と何かでそう書かれていたのですが(ソースは失念)、それのせいで娼館に入り浸っていったのだという推測もできます。また酒...とりわけアブサンの飲む量がしだいに増えていきます。アブサンというのは、麻薬性のあるアルコール度数の高い緑色の酒で、これで身を滅ぼした芸術家は多いです。ロートレックの他に画家ではモディリアニがアブサン漬けになっています。

 そんな荒廃し始めたロートレックに気性の激しいシュザンヌは怒り上がってしまって、もう大変。アトリエ内に並べられていた酒の瓶をなぎ倒し立て掛けてあったイーゼルをぶちこわしてアトリエ内はめちゃめちゃに.....。娼館に居すわっているのを察したシュザンヌが押し掛けて、「アンリ、出てこい!」なんて罵声をあげたや否や、「アンリをだせっ!」と、娼婦相手に詰め寄ったりで、もう迫力満点。w

 そんな争いもやがて終わりすっかり愛想を尽かしてシュザンヌはアトリエから出て行ってしまうのですが、それ以降ロートレックもすっかり娼館が住処になってしまいます。


 ロートレックと言えばムーランルージュ。ポスターを手掛けた事で有名ですね。素早く描写することに長けており、踊り子や娼婦の絵をたくさん残しています。時々、ルポタージュ的だとも言われる様に、当時の風俗を題材にしてありのままに描いたのですが、他の画家と違う点は同じ境遇の世界に浸りその中からの視線で描いているということだと思います。決して娼婦達を軽蔑することはなく、..........映画を見た限りでは、友達みたいな間柄の様。娼館での朝食で娼婦から「アンリ、ポテト食べてく?」なんて声かけられて、何十人も並ぶ長いテーブルに一緒に腰掛けて、食べている場面がありましたが、あれはちょっと異様というか可笑しかった。ひとりだけ背の低い男が入り交じってにこにこしながら食べているんだもの。と同時に妙に微笑ましくも感じるのでした。

 ただし、手持ちの画集の解説には、ロートレックがアルコール中毒になった理由として、毎晩その娼婦達から飲まされていた事が原因だと書かれています。当時、酒の量に応じた報酬でもあったので、できるだけたくさん飲ませてあとは外へ放り投げてタクシーへ送らせていた.....とか。なかなか強かで抜け目ないですね。

 ちなみに....娼館はかなり大きな建物で、1階が大広間で客が品定め(?)するための場所で、カンカンやったり踊ったりする所で、2階が個室になっています。前述の様に広い食堂はもちろん中庭なんかもあるような感じ(....だったはず...)。ロートレックが、閉ざされた空間内での共同体、女子修道院の様な場所であることに興味をそそられたという理由もあったようですが、確かにそういう雰囲気がありました。

 なるべく史実に基づいて映画化されていると思われますが、その中でも演出臭いなと思ったのは、いつもの様に部屋で娼婦(2人)を描いている最中に、いきなりある客が入ってきて、誰かと思いきやなんとロートレックの親父だったのです。お互いに気付いて親父は逃げようとするのですが、他の3人はやる気満々。「ベッドも2つあるし、しようしよう」なんて言ってるし.........。w 

 その辺りまでが楽しめますがそれ以降は、だんだん悲惨になってゆくので見ていて可哀想に思えてしまって......。梅毒感染されて、水銀注射されるし、アルコール中毒の悪化で譫妄(せんもう)状態に陥って精神病院に収容されてしまうし、どうにか退院でき家に帰ろうとするのかと思いきや、開口一番「ムーラン街へ!」なんだもん。もうほとんどヨロヨロ状態で歩行もおぼつかないのに、それでも笑顔で向かってしまうのを見ると、開き直っているのか、それともそれで楽しんでいるのか.......もうどうでもいいからとにかく欲望の果てまて突っ走る、って感じがして本人がそれを望んでいたならそれで良いけど見てる方は痛々しかったから心境は複雑です。


 最後の臨終の際の演出は史実通りか分かりませんが、遺体を運ぶ途中、道際から娼婦達が「バイバイ、アンリ」みたいなノリで笑顔で見送って終わりでした。ちょっと作ってる感じがしたのでいまいちでしたが、結局のところロートレックにとって見送られるにはあれが一番だったのかもしれません。


 そういえばこの映画で知ったのですが、ムーランルージュってとても明るい雰囲気なのですね。......それまでずっと、妖しくて暗い感じだと思っていたのですが全然違いました。「天国と地獄」をバックに大音量で流れる中、フレンチ・カンカンの華やかで(健全ではなく)健康そうな明るい妖しさが満ちあふれていました。

ARC :: Henri de Toulouse-Lautrec (1864-1901)
Musee Toulouse-Lautrec(トゥールーズ家の屋敷を改装して美術館してある)
MOULIN ROUGE (Site Officiel)ムーランルージュのオフィシャルサイト。今でも変わらず営業していて観光名所になっています。

左絵から順に、「Moulin Rouge」、「The Englishman at the Moulin Rouge」、「Woman with a Black Boa」。「Moulin Rouge」はロートレックと言えばまず引用される絵の1つ。このポスターは公開当時から好評でした。「The Englishman 〜」は、群馬県立美術館で「西洋の誘惑」展において展示されていました。石版画なのであちこちにあるようです。ちなみに展示のものは...確か三重県立美術館だったはず。 少ない線で表情や雰囲気を的確に表すのはさすが、ロートレック。モネ、ゴッホ、ドガ等と並んで日本の浮世絵に影響を受けたことが、平面的でシンプルな作風がポスターには打ってつけだったのでしょう。「Woman with a Black Boa」は、日本国内では検索してもヒットしなかったのでマイナーなのかな....。でも個人的にはここ最近お気に入りです。

 .........他にも好きな油彩画があるのですが紹介しきれない.......。ポスターが有名ですが、個人的には油彩画の方が好きです。顔の表情が独特なのです。どこか儚げで物憂い表情をしているのが多くて、それに....ロートレックの背が低いのが関係しているのか、肖像画などはこちらから見上げた様に描かれているものが見受けられます。そういうのが表情に表れているのかもしれません。今まで何度かロートレックの油彩画を間近で見た事がありますが、その展覧会のトリがモネやルノワールだろうと、自分にはロートレックの絵が一番輝いて目に飛び込んで来るのです。

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